【小説】大切な人にこそ命を取られたい #1

1970年代。

戦後の名残りも消えかけ、高度成長期を登り切った日本は、まさに破竹の勢いそのままに発展を続けていた。

都内、といっても中心地ではない。どちらかと言えば下町、古き良き情緒溢れるとある街で、ひと組の男女が愛を囁き合っていた。

23歳、まさに恋多き年頃。

2人の愛が新しい命を育むのに時間はかからなかった。

命が宿ったことを知った男(まさお)は、一見強面にも見える顔をくしゃくしゃにして喜んだ。普段上げないような高らかな声をあげ、”俺がこの世で一番幸せな男だ!”と言わんばかりに女(きよみ)を激励した。

2020年代

未曾有のウイルスが世界中を恐怖のどん底に突き落とした。

人々は不安の中を過ごした。
SNSと呼ばれる、インターネットという仮想空間の中で、人は互いに傷つけあっていた。手のひらほどの電子画面に自分の全神経…全ての魂をぶつけるか如く、現実世界の没落には目も暮れず没頭していた。

都内の比較的中心地に近い、だが下町情緒の残るとある街で、ひと組の男女が愛を囁き合っていた。

この男女には、当時の世界では到底表明できないような大きな秘密があった…